DNAは、遺伝子の物質的な本体として知られている。では、DNAとはどのような物質なのだろうか。ここでは、ほぼ水和した状態の最もオーソドックスなB型DNAの構造について詳しく解説する。
基本単位はヌクレオチドである。
DNAは、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)の頭文字をとった名称である。DNAを構成している成分は、1) 塩基, 2) 糖, 3) リン酸の3つである。
- 塩基
DNAに使われる塩基は、アデニン(A), グアニン(G), シトシン(C), チミン(T)の4種類であり、5員環と6員環が結合した形のプリンと、6員環のみで構成されるピリミジンの2つに分類される。アデニン(A)とグアニン(G)がプリンであり、シトシン(C)とチミン(T)がピリミジンである。このページの3Dの図では便宜上いろいろと省略して示しているが、窒素を赤、酸素を青、炭素を白、水素を灰色、リンを紺色で示している。
- 糖
DNAに使われる糖は、2′-デオキシリボースである。5つの炭素をもつ五炭糖であり、それぞれの炭素には1’〜5’までの番号が割り当てられている。塩基中に含まれる元素にも番号が割り当てられているのだが、これと区別するために糖の炭素には『’』が付けられている。2’位の炭素にヒドロキシ基(OH基)が付いておらず水素2個のみとなっているので、2′-デオキシリボースとよばれる。
- リン酸
リン酸基(H2PO4基)は、水溶液中では水素イオン(H+)が電離してマイナス(-)に帯電している。したがって、DNAは分子全体にわたってマイナス(-)に帯電していることになる。
これら3つのパーツが以下のように組み合わされ、DNAが構築される。
塩基が糖の1’位の炭素に結合し、ヌクレオシドが形成される。さらに、ヌクレオシド中の糖の5’位の炭素にリン酸が結合すると、DNAの基本構成単位であるヌクレオチドが形成される。4種類の塩基それぞれに対するヌクレオシドの名称を下の表にまとめた。
塩基 | ヌクレオシド (糖がデオキシリボースの場合) |
ヌクレオチド(リン酸基が1つ) (糖がデオキシリボースの場合) |
アデニン | デオキシアデノシン | デオキシアデノシン一リン酸 |
グアニン | デオキシグアノシン | デオキシグアノシン一リン酸 |
シトシン | デオキシシチジン | デオキシシチジン一リン酸 |
チミン | デオキシチミジン | デオキシチミジン一リン酸 |
このヌクレオチドが連結することにより、ポリヌクレオチド鎖が形成される。このヌクレオチド間の結合を担当するのがリン酸であり、デオキシリボースの5’位の炭素と3’位の炭素の間をリン酸基がつないでいる。このリン酸を介した結合をリン酸ジエステル結合(ホスホジエステル結合)という。つまり、下の図に示したように、ポリヌクレオチド鎖の骨格を成しているのは、糖とリン酸が交互に連結したものである。そして塩基は、この糖-リン酸骨格から突き出す形でデオキシリボースと連結しているのである。
さらにここで重要なのは、ポリヌクレオチド鎖には方向性があるということである。ポリヌクレオチド鎖が形成されたとき、リン酸基の付いたオキシリボースの5’位の炭素が向いている側を5’末端、OH基の付いたデオキシリボースの3’位の炭素が向いている側を3’末端という。