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DNAの安定性と変性

DNAの二重らせん構造を構成する2本のポリヌクレオチド鎖は、各鎖の塩基間で形成される相補的な水素結合により結合している。しかし、二重らせん構造を支える力はそれだけではない。そこで、二重らせん構造の安定性を支える力と、DNAの変性について説明したい。

二重らせんを安定化する相互作用

DNAは、2本のポリヌクレオチド鎖が塩基間の相補的な水素結合を介して結合したものである。共有結合による結合ではないため、2本の鎖はちょっとした操作で分離することができる。このように、DNAの2本の鎖が分離することを変性(denaturation)という。DNAの変性は可逆的であり、条件を戻せば元の二重らせんに再生することができる。

転写や複製のときにDNA鎖を開くのはDNAヘリカーゼという酵素だが、後述するように温度やpHを調整することで変性・再生をコントロールすることができる。これが、ハイブリダイゼーションやPCRの技術的基盤となっている。

そもそも、DNAの二重らせん構造の安定性に影響する力には、以下のようなものがある。

  • 塩基間の水素結合
    チミンとアデニン間には2本の水素結合、シトシンとグアニン間には3本の水素結合がある。したがって、塩基配列中にC-G塩基対が多い方が、DNAはより安定ということになる。
  • 塩基対の積み重ねによる疎水性相互作用
    DNAの塩基対の平面はらせん軸と垂直になっており、らせん軸に沿って塩基対が積み重ねられている。塩基対間の距離は0.34 nmで、その間に水分子(H2O)の入る余地はなく、塩基対間には疎水性相互作用が生じる。これも、DNAの二重らせん構造を安定化する要因である。
  • 糖-リン酸骨格のマイナス電荷による反発
    糖-リン酸骨格中のリン酸基は、中性条件では電離してマイナスの電荷をもっている。ヌクレオチドごとにマイナスの電荷をもち、隣接するリン酸基どうしは反発する。この反発自体もらせん形成には重要らしいが、プラスの電荷をもつタンパク質や陽イオンによって中和されて安定化する。

温度の影響

DNAは塩基の部分(塩基内の共役二重結合)で紫外線を吸収することが知られている。DNAは波長260 nmの紫外線をよく吸収するため、この紫外線の吸光度を測定してDNA溶液の濃度を計算する。

DNAの二重らせん構造は加熱することによって変性するが、DNAが変性すると紫外線の吸収が約40%増大する。これを濃色効果(hyperchromocity)という。通常の二重らせん構造の中では、DNAの塩基はらせんの内側で積み重なって存在しているため、紫外線吸収能力は減少している。ところが、DNAが変性すると塩基が外側に露出するため、塩基がもつ本来の紫外線吸収に近づくのである。

DNA溶液の温度を徐々に上げていくと、熱に対する安定性がよくわかる。波長260 nmの紫外線への吸光度を測定すると、下図のような融解曲線になる。ある温度でDNAの一部が変性すると、残りの部分も変性し、吸光度は増大していく。このとき、50%のDNAが変性するときの温度を、融解温度(Tm値)という。このTm値は、PCRやハイブリダイゼーションの実験条件を決定する上で重要となる。

pHの影響

DNAの二重らせん構造はpHによっても影響を受ける。
もう一度、下図の塩基対を見てみよう。DNAの二本のポリヌクレオチド鎖は、塩基間の水素結合により安定化する。

ところがDNA溶液をアルカリ性にすると、グアニンの1位のNやチミンの3位のNが脱プロトン化して水素イオンH+を放出するため、DNAは変性する。この反応のpKaはそれぞれ9.7と10.0なので、溶液のpHがこの値を超えると脱プロトン化することになる。これらの部位はちょうど塩基対形成(水素結合)に関わる部分なので、この脱プロトン化により水素結合が壊れて変性するのである。


※ pKaは、下記の文献より2’-デオキシヌクレオシド 5’-一リン酸のpKaを参考にした。
Dawson, R.M.C. et al., (1959) Data for Biochemical Research, Oxford, Clarendon Press

塩濃度の影響

DNAの主鎖を構成する糖-リン酸骨格は、リン酸の部分が常にマイナスの電荷をもっている。隣接するリン酸基どうしは互いのマイナス電荷により反発するため、二重らせん構造は不安定化する。しかし塩濃度(イオン強度)が上昇すると、陽イオンによってマイナスの電荷が遮蔽されてリン酸間の反発が緩和され、DNAが安定化(Tm値が上昇)する。だから、PCRやハイブリダイゼーションでは塩濃度も重要なのだ。

変性剤の影響

DNAの変性剤として、尿素(NH2-CO-NH2)やホルムアミド(NH2-CHO)が使われる。尿素とホルムアミドはどちらも、アミノ基(-NH2)とカルボニル基(-C=O)を両方もつ平面状の分子である。この平面状の部分が疎水性を示すと同時に、-NH2と-C=Oの部分は水素結合の受容体/供与体として作用する。

上述のように、DNAの二重らせん構造は塩基間の水素結合と塩基対間の疎水性相互作用によっても安定化している。このような尿素やホルムアミドがDNA溶液中に存在するとどうなるだろうか。実は、尿素やホルムアミドには溶液の極性を下げる作用がある溶液の極性を下がると、塩基対の積み重ねによる疎水性相互作用は弱まり、Tm値が下がることになる。さらに、水素結合に割り込むことによって塩基対を壊す作用もあるようだ。

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