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電気泳動ってなぁに?
電気泳動ってなぁに?
博士、遺伝子操作技術編もいよいよ3ページ目に突入ですね。
うむ。今までのページで、DNAを自由自在に切ったりつなげたり出来ることは分かったであろう。しかも大腸菌を使えば、切り貼りして組換えたDNAを簡単に増やすこともできる。
素晴らしいです。ところで、DNAって本当は目に見えないくらい小さいんですよね?なのに、どうやって DNAが切れたとかつながったとか分かるんですか?
基礎編の“遺伝子への旅”でちょっと紹介したように、電子顕微鏡を使えばDNAを見ることは出来る。だが、もっと簡単にDNAの長さを調べる方法がある。それが、これから紹介する電気泳動じゃ。
電気泳動?電気で泳いで動く...玩具みたいですね。それは、どんな生き物ですか?
いや、生き物ではない。電気泳動というのは、外部から電場をかけて荷電分子をゲルの支持体の中で移動させる方法のことじゃ。
博士、全然分かりません。
つまり、電気を使ったDNAの障害物競走じゃ。
???
実は、DNAはリン酸の部分に−の電気を持っておる。だから、もしDNAが入った溶液に電気をかけると、DNAは−極から+極に向かって移動するんじゃ。
このとき、DNAをゲルと呼ばれる障害物の中に入れておくと、DNAが移動する速さはDNAの長さによって違うんじゃよ。
人間の場合は、障害物競走の時は背の低い人の方が有利ですよね。
そう。DNAの場合も同じで、短いDNAの方が速く移動し、長いDNAは遅いんじゃ。
ふ〜ん。 長いDNAの一発逆転はないのですか?
DNAの移動する速さは、長さだけでなく、形によっても変わることがある。例えば、応用編の“DNA七変化”にあるような構造があると、遅くなるんじゃよ。
なるほど。では具体的に、どのように電気泳動をおこなうのか教えて下さい。
では、アガロースのゲルを使った電気泳動を紹介しよう。アガロースとは、すなわち寒天のことじゃ。
えっ、寒天で電気泳動が出来るんですか?
うむ。もちろん、研究の世界ではもっときれいに精製されたアガロースが使われておる。まず、このアガロースを電気泳動用の溶液に温めて溶かして、それを四角い箱に流し込んで、冷まして固めるんじゃ。
食べる寒天の作り方と同じですね。お砂糖は?
写真の青い部分が、流し込んだDNAですね。
そう。見やすいように、青と紫の2種類の色素が混ぜてあるんじゃ。そして、このゲルに電気を流す。赤いコードが付いているのが+極、黒いのが−極じゃ。上でも解説したように、DNAは−極から+極に向かって流れる。
なるほど。色素を入れておいたから、どのくらい電気泳動されたかが分かるんですね。でも、このままではDNAなんて見えませんよ?
おぉ〜〜〜〜〜〜〜! 光ってますねぇ。とってもビューチフルです。でも、光っている部分がいっぱいありますね。どんなDNAを電気泳動したのですか?
これについては、“遺伝子を切る!”と“道具としての大腸菌”の復習も兼ねて説明しよう。今回の電気泳動では、大腸菌から取り出したプラスミドを3種類の制限酵素で切って電気泳動したんじゃ。まずは、光らせたDNAのポラロイド写真とプラスミドの構成を示した地図が下にあるから見てごらん。
簡単に説明しよう。レーン1では、大腸菌から単離した環状のプラスミドをそのまま流したんじゃ。これをEcoRI(レーン2)やXmnI(レーン3)で切ると、直鎖状(地図中の緑青黒赤の全部)になる。また、このプラスミドにはHindIIIの認識部位が2つあるので、HindIIIで切ると2つのDNA断片(地図中の緑青と黒赤)に別れるんじゃ(レーン4)。
なるほど。環状と直鎖状でも、電気泳動の速さは違うんですね。
そう。そして、HindIIIで切ったものをさらにEcoRIで切ると、レーン4の上側の断片(地図中の黒赤)はそのままで、下側の断片(地図中の緑青)が緑と青の2つに別れる(レーン6)。
う〜ん、完全にパズルの世界ですね。
下の表にまとめてあるので、ゲルの写真と比べてみなさい。すべてのレーンで、DNAが長さによって正しく電気泳動されていることが分かるじゃろう。
レーン | 電気泳動したDNA | DNAの長さ |
---|---|---|
M | すでに長さ分かっているDNA | ポラロイド写真の右側に記載 |
1 | 大腸菌から単離したプラスミド | 6031 bp(環状の緑青黒赤) |
2 | EcoRIで切ったプラスミド | 6031 bp(直鎖状の青黒赤緑) |
3 | XmnIで切ったプラスミド | 6031 bp(直鎖状の赤緑青黒) |
4 | HindIIIで切ったプラスミド | 2517 bp (緑青)と3514 bp (黒赤) |
5 | EcoRIとXmnIで切ったプラスミド | 2684 bp (赤緑)と3347 bp (青黒) |
6 | EcoRIとHindIIIで切ったプラスミド | 672 bp (緑)と1845 bp (青)と 3514 bp (黒赤) |
7 | HindIIIとXmnIで切ったプラスミド | 1502 bp (黒)と2012 bp (赤)と2517 bp (緑青) |
どうかね、理解できたかね?
はぁ、なんとなく...ところで博士、電気泳動が終わったら、その寒天を食べましょうよ。DNA入りで美味しそう!
注意:臭化エチジウムは強力な発癌剤なので、染色済みのゲルを食べてはいけません!