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ゲノム編集の基礎

ゲノム編集とは、部位特異的ヌクレアーゼを利用することによりゲノム中の標的部位に目的とする遺伝子改変を導入する技術である。「ゲノム編集」は、これまで遺伝子改変が困難であった生物においても適用可能であることから、幅広い分野の研究者から注目されている。このページでは、ゲノム編集の基礎について解説したい。

部位特異的ヌクレアーゼ

ゲノム編集の鍵となるのが、部位特異的ヌクレアーゼである。部位特異的ヌクレアーゼがゲノム中の任意の塩基配列にDNA二本鎖切断(double-strand break:DSB)を導入し、これが修復される過程で標的部位に目的とする遺伝子改変を導入することができる。現在、部位特異的ヌクレアーゼとして利用されているのは、ZFN・TALEN・CRISPR-Casの3種類である。

ZFN

1996年に最初に登場したZFN (Zinc-Finger Nuclease)は、DNA結合ドメインとしてCys2-His2型のジンクフィンガーをもち、個々のフィンガーは3塩基対を認識する。したがって、3個のフィンガーを連結すると9塩基対を認識するようデザインできる。しかし、ZFNによる塩基認識は隣接するフィンガーによって影響を受けるため(文脈依存性)、単純に連結させるだけでは特性の高いZinc Finger Arrayを作製できず、設計が困難であるという問題点もある。
このようなZinc Finger ArrayとⅡ型制限酵素FokIのDNA切断ドメインを融合させたものがZFNである。細胞内で一組のZFNを発現させると、FokI切断ドメインが二量体を形成し、標的部位にDSBが誘導される。

TALEN

TALEN (Transcription Activator-Like Effector Nuclease)は、で2010年に登場した部位特異的ヌクレアーゼである。TALENのDNA結合ドメインは、植物病原細菌Xanthomonas属のtranscription activator-like effector (TALE)に由来する。TALEは34アミノ酸からなるDNA結合モジュールの反復配列で構成され、各モジュールのrepeat-variable di-residues (RVD)とよばれる12番目と13番目のアミノ酸が1塩基を認識する。TALENの塩基認識にはZFNのような文脈依存性はないため、モジュールを連結するだけで任意の塩基配列を認識できるようになる。

TALENも、ZFNと同様にⅡ型制限酵素FokIのDNA切断ドメインを融合させたものであり、細胞内で一組のTALENを発現させると、FokI切断ドメインが二量体を形成し、標的部位にDSBが誘導される。

CRISPR-Cas

上記の2つの部位特異的ヌクレアーゼと異なり、標的配列の認識にRNAを利用するのがCRISPR-Cas (clustered regularly interspaced short palindromic repeats-CRISPR associated)である。CRISPR-Casは細菌の獲得免疫機構に由来しており、Cas9ヌクレアーゼを標的部位へと誘導するためにガイドRNAが用いられる。細菌ではCRISPR RNA(crRNA)とトランス活性化型CRISPR RNA(tracrRNA)が複合体を形成したガイドRNAが使われているが、ゲノム編集では両者を組み合わせて単一のRNAとしたsgRNA(single guide RNA)がよく用いられる。
Cas9-gRNAの標的配列にはPAM配列(proto-spacre adaptor motif)が必要であり、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)に由来するCas9を使用する場合、標的配列に隣接して5’-NGG-3’のPAM配列が必要である。PAM配列の上流を標的配列としてsgRNAをデザインすれば、Cas9-sgRNA複合体により認識された標的配列にDSBが誘導される。複数のsgRNAを用いることにより、複数の標的配列に同時にDSBを誘導することも可能である。sgRNAの作製が容易であることから、CRISPR-Casシステムは現在広く利用されている。

ゲノム編集の原理

部位特異的ヌクレアーゼにより導入されたDSBは、主に非相同末端連結(Non-homologous end-joining:NHEJ)により修復される。修復された配列は再び部位特異的ヌクレアーゼにより切断されるが、NHEJはエラーを起こしやすい修復経路であるため、何度か修復を繰り返す過程で塩基の挿入や欠失が生じる。もし遺伝子のコード領域中で挿入や欠失が導入されると、フレームシフト変異により遺伝子が破壊される。こうして目的の遺伝子がノックアウトされるのである。

部位特異的ヌクレアーゼにより誘導されたDSBは、相同組換え(Homologous recombination:HR)によっても修復される。DSB部位の周辺と相同な配列を両端にもつドナー構築を部位特異的ヌクレアーゼとともに導入してやれば、HRを介して目的の塩基配列を挿入することも可能になる。こうして、ゲノム中の目的の部位にノックインすることができるのである。

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