DNAや遺伝子について学ぼう!

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DNAの精製

遺伝子(DNA)を扱う実験の基本は、DNAを精製することである。大腸菌やプラスミドを精製したり、培養細胞や組織からゲノムDNAを精製したり。市販のキットを使えば簡単にできるが、ここではマニュアルな方法の原理を紹介しよう。

プロテアーゼ処理

細胞は、DNAやRNAの核酸以外にも、タンパク質・脂質・炭水化物などのさまざまな物質で構成されている。そして、細胞内のDNAにはタンパク質が結合している。このような細胞や組織からDNAを抽出する際に必要になるのは、タンパク質の除去である。そこで、使われるのがタンパク質を分解する酵素、プロテアーゼである。

よく使われるのは、真菌類Tritirachium album由来のプロテイナーゼK(proteinase K)である。プロテイナーゼKの温度安定性にはCa2+が重要だが、酵素活性に必須ではないため、EDTA存在下でも酵素活性が低下しない。また、プロテイナーゼKはSDSや尿素などの変性剤の存在下でも活性を失わず、pH 4.0~12.5(至適pH:7.5~12.0)、温度25~65℃(至適温度:50〜65℃)と広い条件で使用可能であるため、タンパク質の分解に広く用いられる。よく使われる反応条件(0.5% SDS, 5 mM EDTA, 55℃)ではDNAの分解酵素(ヌクレアーゼ)も作用しないため、DNAの抽出に適したプロテアーゼである。

フェノール/クロロホルム抽出

タンパク質は、20種類のアミノ酸が一列に並んで連結したポリペプチド鎖で構成される。タンパク質に使われるアミノ酸には、極性(親水性)アミノ酸と非極性(疎水性)アミノ酸がある。水溶液中では、タンパク質が適切に折りたたまれて固有の立体構造を形成し、機能的なドメインが形成される。このとき、非極性(疎水性)の残基を内側に隠し、極性(親水性)の残基を水分子と接する外側に向けて安定化している。このような立体構造がタンパク質の機能には重要で、これが熱などによって壊れると機能を失うことになる。

DNAを含む水溶液からタンパク質を除去するとき、タンパク質変性作用をもったフェノールやクロロホルムなどの有機溶媒(あるいはその混合物:フェノール/クロロホルム)が使われる。無極性な有機溶媒であるフェノール/クロロホルムをDNA水溶液に加えても、両者は分離したままで混ざり合わない。しかし、ボルテックスミキサーにより激しく混合すると、一時的に乳液状になって両者が混ざり、これにより水溶液中のタンパク質の立体構造が壊れる(変性する)。すると、立体構造の内側に隠れていた非極性(疎水性)残基が外側に出てきてフェノールにトラップされ、極性(親水性)残基は水相に留まろうとする。この溶液を遠心分離すると、水溶液(水相)とフェノール/クロロホルム溶液(有機相)は分離するが、タンパク質は両方に引っ張られて中間層を形成する。遠心後、タンパク質を含む中間相をとらないように、DNAを含む水相を吸い取って新しいチューブに移せば、タンパク質除去の完了である。

エタノール沈澱

DNAを含む水溶液から不要な塩類を除去したり、DNAを濃縮するためにエタノール沈殿が行われる。DNA溶液に2〜3倍量のエタノールを加えると、エタノールがDNAから水和水を奪われるため、DNAが沈殿する

しかし、ただエタノールを加えただけではDNAは沈澱しない。それは、水和水を奪われたDNAでは、マイナスの電荷をもつリン酸基を露出し、DNAどうしが互いに反発するからである。しかし、そこに塩を加えておくと、Na+のような陽イオンがDNAのマイナス電荷に結合し、DNA鎖間の反発する電荷を中和する。こうしてDNAの親水性は大きく低下するとともに、DNAが凝集しやすくなり沈殿するのである。

また、エタノールの役割は水和水を奪うことだけではない。水溶液中ではNa+イオンとリン酸基の静電的な相互作用は起こりにくいが、誘電率の低いエタノールを加えることでNa+によるリン酸基の負電荷の中和が成立するのである。

エタノール沈殿に使われる塩には、以下のようなものがあり、目的に応じて使い分けられる。

酢酸ナトリウム 通常のDNAやRNAの沈殿に使われる塩で、3 M Na-acetate (pH 5.2)を最終濃度0.3 MになるようDNA溶液に加える。
塩化ナトリウム こちらもよく使われる塩で、5M NaClを最終濃度0.2 MとなるようDNA溶液に加える。DNA溶液にSDSが含まれるときには、SDSの析出を防ぐためにNaClを使う方がよい。界面活性剤は70%エタノールに可溶である。
酢酸アンモニウム dNTPなどの共沈殿を軽減するのに使われる。2M酢酸アンモニウムを使ったエタノール沈殿を2回繰り返せば、99%以上のdNTPが除去される。ただし、アンモニウムイオンがT4ポリヌクレオチドキナーゼなど一部の酵素活性を阻害するため、注意。
塩化リチウム RNAの沈殿など、高濃度のエタノールが必要なときに使われる。RNAはDNAより親水性が高く、沈殿には高濃度のエタノールが必要になる。そのため、エタノール溶液によく溶け、さらに核酸と共沈殿しない塩化リチウムが使われる。

エタノール沈殿に用いた塩は、残存すると次に行う酵素反応などを阻害することがある。そこで、遠心分離後に上清のエタノールを除去し、DNAの沈殿を70%エタノールで洗浄すれば、脱塩されたきれいなDNAが精製される。

またエタノール以外にも、より極性の低いイソプロパノールが使われることもある。イソプロパノールの場合、DNA溶液と等量のイソプロパノールを加えれば十分なので、液量が多い場合には便利である。

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